日鉄鉱業大洞鉱山は国鉄釜石線上有住駅の北東にあった。
岩手県住田町に位置していて石灰石を産出していた。
産出された石灰石は国鉄上有住駅から貨物列車で、国鉄の貨物列車で釜石の日本製鐵釜石製鐵所に搬入されていた。
当時鉱山や工場などの軌道に興味を持っていて、地図で軌道の記号を見つけると訪問したりしていた。
だが地図の軌道の記号は結構適当で、もう何年も前に無くなっていたり、もともと軌道など無くただの道路だったということも多かった。
訪問前にその軌道について調べられれば良いのだが、当時はインターネットみたいな便利なものはまだ無かった。
鉱山等の軌道の情報はあまり出回っていなくて、自分で実際に行くぐらいしか確認する方法が無かった。
東北地方に地図で目星をつけてあった場所が幾つかあった。
昭和56年7月に夏休みを利用して北海道旅行に出かけるついでに何ヶ所か立ち寄ってみた。
釜石線上有住駅近くの軌道もその一つだった。
上有住駅を降りて鍾乳洞の案内板をかすめて行った所に目指す日鉄鉱業大洞鉱山はあった。
地図に鉱山マークは付いていたが、正式名称はその時初めて知った。
近くにいた従業員らしい人に許可を得て軌道を見学させてもらう。
今だったらこんなに簡単に許可は貰えないだろう。
軌道と機関車は荒れていて使われているのかどうかわからない状態だった。
見たところ機関車は鉱山でよく見かけるL字型のTL(トロリーロコ)が2両と鉱車が数両放置されていた。
いったい貨車はどこにあるのだろう?
探索した範囲には見あたらなかった。
Y字型に敷かれた軌道の距離もそんなに長い距離ではない。
しばらく様子を見ていたが留置してある機関車が動く気配が全くないので早々にお礼を言って見学を終えた。
大洞鉱山の顧客だった日本製鉄釜石製鉄所は昭和53年から段階的に合理化を進めていった。
日本製鉄釜石製鉄所は平成元年には高炉を全面休止した。
石灰石の納入先を失った大洞鉱山はそのあおりを受けて平成元年3月に石灰石採掘を停止し休山になった。
そして大洞鉱山は38年間続いたその歴史を閉じた。